少女、赤毛の少年の大切さを知る
†Case10:少女、赤毛の少年の大切さ知る
それから部活が終わるまで見学という形で彼らの手伝いをすることにした私。
幽霊を祓うためにはブン太におびき出してもらう必要があるから、部活が終わってからじゃないと出来ないからね。
『柳君、今いいかな?』
私はコップを持ってノートに何かを書いていた柳君に近寄った。
「ああ、構わない」
柳君はそう言ってノートをぱたんと閉じて私と向き合う。
そんな彼に私はコップを差し出す。
『ドリンクの味見、お願いしたいんだけど』
無言でコップを受け取った柳君はドリンクを飲むと、少し驚いたような顔で私を見た。
「美味いな…。何を入れたんだ?」
ふむ、と一人頷き先程閉じたノートを開いた柳君。
『企業秘密だよ。で、詳しい味の感想は?』
ふふん、と胸を少し張りながら悪戯に微笑む。
柳君は少し頬を緩めると、ドリンクを褒めてくれた。
私は嬉しくなり、コップを回収するとくるりと踵を返してドリンクを取りに向かう。
『あ、そうだ』
部室に向かって数歩歩いたところで私はぴたりと立ち止まる。
『人の話をノートに書くのは良いことだと思うけど、人の話の最中に書くときは一言断りをいれたほうがいいと私は思うよ。じゃあ味見してくれてありがとう』
悪戯っこみたいな人懐っこい笑みを残し、今度こそ部室に向かった。
††††††††††
「名字、すまんがちょっと来てくれんか!?」
ドリンクなどを渡し終え、球拾いを手伝っているときだった。
もうすぐ部活も終わり、ってときにやけに仁王君が焦った様子で私を呼びにきた。
『どうしたの?何かあった?』
とりあえず仁王君を落ち着けて、話しを詳しく聞く。
「ブンちゃんが倒れたんじゃ!今幸村達が見てるんじゃが、どうも熱中症なんかじゃないらしい」
えっと…、つまり霊の仕業であるかもしれないと。
『分かった。幸村君にブン太を部室に運んでもらうように言ってくれる?』
さて、少し時間も早いけどまあ私にとっては嬉しい誤算だ。
前もって準備してたから困ることはないし、テニス部と関わる時間が短くなる。
それに何より、あの部室にとり憑いてるユーレイってイケメンだし!
ふふっ、いざ、イケメンユーレイ捕獲!!
あわよくば彼氏ゲットするぞー!!
††††††††††
部室に向かうと、強い霊気が漏れだしていた。
ここまで強いと触れられないなあ。
弱い霊は何の力も持たないから、私の霊力があれば触ることも出来るんだけど、強い霊は向こうから触れようとしてくれなきゃ触れない。
…ああ、なんかそういうの悲恋っぽくていいなあ。
頭でそんなことを考えながら部室に入る。
視界の端に入ったブン太に寄り添うようにしている目当てのイケメン幽霊。
「名字さん、丸井がぐったりしてるんだけど、」
『大丈夫だよ、幸村君。ブン太、私の声聞こえてる?』
幸村君の声を遮って、少し苦しそうなブン太に話しかける。
「ああ、大丈夫だよぃ。それより名前、俺を使ってもいいけど、殺さないでくれよ?」
ブン太はチラリと自分に寄り添っている幽霊を見て溜息を吐いた。
『うん、ありがとう。…総一君、』
私はブン太や部員が見ている中、野々宮総一君に近寄った。
総一君はこのテニス部の部員で、部室で自殺したらしい。
するっと総一君の頬に指先を滑らせると、周りからうわっと小さく声が漏れた。
どうやら私が触れて更に霊力が上がり、皆にも見えるようになったようだ。
といっても、私の手は通り抜けたが。
††††††††††
『総一君、私、貴方のこと………、』
ブン太以外からの視線が激しく痛いがそんなどころじゃない。
私は総一君に告白するために、一歩身を引く。
【丸井…丸井……】
…ん?今幻聴が。
【丸井……】
『うそっ!?まさかブン太のこと好きとか!?』
丸井と何度も優しく呼ぶ総一君。
ブン太に更に近寄り、ブン太の頬を撫でていた。
えっ、ちょっと、ブン太は触れるの!?
何それ憎い!!
私は総一君とブン太に駆け寄り、総一君に声をかける。
『総一君、私を見て?ブン太は男だよ?』
【丸井…】
自分を指して詰め寄るも、私の言葉をスルーしてブン太の名前を呼ぶ。
かっちーん。
私はブン太に触れ、イライラをぶつける。
『うわーん!ブン太の泥棒猫っ!!』
ブン太の胸倉を掴むようにして持ち上げる。
「あのなぁ…、俺、は…泥棒猫も…何も、ねぇって」
苦しそうにしながらもいつものように笑うブン太。
あれ、何かやばくない?
顔なんか青白いし、息だって上がってるし。
このまま死んじゃうんじゃ…。
††††††††††
ブン太が死んじゃう?
………あれ、なんかそれって素敵じゃない?
「…名前、今、俺が死ぬ、のいいな、とか…、思った、だろ?」
『アハッ☆』
じとりとした目で睨んでくるも、その目に生気はほとんど感じられない。
それどころか、呼吸もだんだん荒くなり今にも死んじゃいそうだ。
『…ブン太?』
ぐったりとして私にもたれ掛かってきたブン太の顔を覗き込むようにして名前を呼ぶ。
しかし、ブン太は何の反応もしない。
【丸井…】
総一君がブン太に触れて、更に密着しようとする。
『ブン太、ねえ……』
しかしブン太は何の反応も示さない。
『………死ぬなっ、ブン太の馬鹿っ!!』
私は総一君に構わず、泣きながら叫んだ。
ブン太が死ぬなんて、そんなのヤダ。
死んだらだって、私ブン太に触れなくなるかもしれないんだよ?
私もブン太に頼られなくなるし、もしかしたら私の前から消えちゃうかもしれない。
イライラとかモヤモヤとか、そんな感情に任せて叫ぶと、辺りがぱっと明るく光った。
周りが消えた…とか言ってるけどそんなことどうでもいい。
『うえっ………ひっく………、起きなさいよ……っ!』
ボロボロと涙が溢れる。
頬を伝って落ちた涙はブン太に落ちる。
すると、それに反応したブン太が弱々しく起きた。
「…ったく、泣くなよ」
呆れたようにブン太に乱暴に涙を拭われる。
『ごめ…なさ…』
「もういいって。初めからそういう約束だったしな。俺を守る代わりに名前の恋人を作る手伝いをする。死ななかったんだし、結果オーライだろ!」
にっ、と笑うブン太に抱きつきながら泣き喚く。
ブン太が幽霊だったらいいのに、っていつもなら思うけど、いざとなったら怖くなった。
ブン太は、私が守らなきゃ。
ブン太には生きていて欲しいから。
[ 10/25 ][*prev] [next#]
[back]
[しおりを挟む]